東海地方の山車は、数が多く、しかも江戸時代のすぐれたものが多い。そして、その装飾や芸能の内容が非常に多彩であるという特徴を持つ。
愛知県には約400輌、岐阜県と三重県には、それぞれ約150輌の山車がある。山車の多いことで知られる滋賀県(注1)や富山県(注2)でも山車は約100輌であるから(この両県にも江戸時代の優れた山車が多い)、愛知県がいかに多いかが分かる。
しかし、大阪府では和泉地方だけで約300輌以上(注3)、静岡県の遠江地方には800輌以上(注4)の山車があるというから上には上がある(ただし、これら2地域の山車はいずれも小型で、建造年代も新しいものが多い)。
全国的にみると山車の集中する地方が幾つもあるが、通常、一地方の山車の型式はせいぜい数種類で、しかも同一趣向(たとえば、彫刻に重点を置くとか、曳き回しに特徴があるとか)のものが多い。
それらに比べると東海地方には実に多彩な山車が見られる。まず、名古屋型から発達した山車が10種類の型式に分化しており、それらの中には、からくり人形に重点を置くもの、彫刻の優れたもの、掛物の優れたものなど様々な特色を持つ。
これに加えて長浜型、石取祭車、鯨船、日野型など個性の強い山車が各地に分布している。
東海地方はまさに山車の宝庫であり、この地方だけで日本の山車のあらゆるパターンが見られる、と言っても過言ではあるまい。こうした優れた特徴があるにもかかわらず、東海地方の山車は地元でも、全国的にもあまり知られていない。
せめて地元の人たちだけでもこれら山車の価値を理解することによって、江戸時代のこの地方に豊かな町人文化があったことに気付き、さらには、もっと地元の文化を大切にしていってほしいと思うのだが。