東海地方の山車の特徴は、その数が多いことに加え、山車の形態、装飾、芸能などが非常にバラエティに富んでいることである。尾張周辺には名古屋・東照宮祭の影響を受けた山車が広く分布しており、名古屋型、犬山型、知多型、挙母型、大垣型、高山型など複雑に分化している。
これらの中には、からくり人形に力を入れるもの、彫刻や掛物に優れたものなど様々な趣向がこらされている。
一方、三重県北部には石取祭車、鯨船という特異な山車があり、また関西と接する地域には京都祇園祭を真似た京都型、子供歌舞伎の長浜型など関西系の山車が見られる。
一つの地域に、これだけ様々な形態や性格を持った山車が見られる例は珍しい。この章では、中京地方にある様々な山車を形態分類し、その特徴について説明する。
室町時代に出現し、かつて中京各地に見られた巨大な山車。櫓を数段に組み、松の木を立て、社殿、龍の作り物、操り人形を乗せる。
車楽と一緒に曳かれることが多かった。現在はほとんど残っていない(第4章で詳しく述べた)。
大型の二層式山車に囃子方と踊り手(稚児)が乗り、屋根上に能人形と松の木を立てる。陸上のものと船上に組むのものとがある。
代表例として津島天王祭の車楽(船上)があげられる(これも第4章で説明した)。
津島天王祭(写真48)の宵祭の車楽の飾りつけをこのように呼ぶ。車楽の屋根上に竹竿で365個の提灯をつけて半球形を作り、その上には柱に沿って12個(旧暦の閏年には13個)の提灯をつるす。
津島の他に、須成天王祭(愛知県蟹江町)、菅生祭(岡崎市)、ちんとろ祭(愛知県半田市)、大野祭(愛知県常滑市)などに見られる。
また、洲崎天王祭(名古屋市)、清洲天王祭(愛知県清洲町)、下一色天王祭(名古屋市)、渡島水神祭(岐阜県川島町)など、廃止または中止されているものも多い。
津島天王祭、須成天王祭以外は宵祭りのみで、朝祭り(人形山)は行われていない。津島を真似て始めたケースがほとんどで、中世にさかのぼるものはほとんどないと思われる。