さて、山車の曳き回しで最も見どころとなるのは方向転換のときである。その方法としては大きく分けて、引きずって回す方法(写真8)と、前輪または後輪を持ち上げて回す方法(写真9)の二種類がある。
引きずって回す例では、亀崎潮干祭、乙川祭などの知多半島の祭りや挙母祭が迫力がある。いずれも、宮入りにおいて、走りながら一気に方向を変えるところが一番の見せ場である。
一方、持ち上げて回す例には、名古屋旧市街の祭り、西枇杷島祭、犬山祭、知立祭などがある。特に知立祭の宮入りで方向を変えた山車が、後輪を持ち上げたまま200メートルの坂を下るシーンはまさに圧巻である。
なお、他に高山祭、古川祭、上野天神祭の補助輪を使う例や、高田祭、関夏祭(三重県)の台輪から上が回転して180度方向を替える例がある。
ところで、山車の魅力でもう一つ忘れてはいけないものに、町の人々の熱狂ぶりがある。
特に桑名石取祭(写真10)の熱狂ぶりは有名である。この祭りには石取囃子という勇壮な太鼓囃子があって、町の人が入れ替わり立ち替わり延々と太鼓を打ち続ける。
この石取囃子は極めてやかましい。それを、深夜2時に30輌以上の祭車が一斉に叩き始めると言うのだから、もう常軌を逸している(山車祭りの場合、常軌を逸しているというのは誉め言葉である)。
挙母祭もまた常軌を逸している。古くからの風習ではないが、膨大な量の紙吹雪を撒き散らしながら進む。あまりの多さに、宮入りの際には、山車が見えなくなる。
撒くというよりもむしろぶちまけるという方が正しく、祭りが終わると町は紙吹雪だらけになる。