[尾張の山車まつり]−[祭吉の山車祭講座][彫刻の題材〜]

第110回 彫刻の題材〜

亀崎田中組「神楽車」前山泰平鰭
 獏とは霊獣の一つで想像上の動物です。鼻は象目は犀尾は牛足は虎で、体形は熊に似ているとされます。人の悪夢を食い、その皮を敷いて寝れば疫病を避け、その形を描けば邪気を払うとされることから、神社建築の装飾彫刻として古くから用いられてきました。
 また、一説に獏は鉄を食らうと言われ、平和の象徴ともされてきました。世の中が乱れると獏は生きていけない。つまりこれは、戦乱ともなると鉄は武器に変えられ、獏が食べるべき鉄がなくなる。ということから平和の象徴となったようです。
 こうした諸説から獏は非常に縁起のよい霊獣です。山車彫刻でも獏は多く見られます。最も多く見られるのは木鼻です。前項の講座「木鼻」でも紹介しましたが獏鼻と呼ばれる物です。その付けられ方は山車によって様々ですが、知多型山車の前山部四本柱に渡された虹梁の端に付きます。
亀崎中切組「力神車」前山木鼻
 多くの場合、前山の側面に一つないし二つ付きます。なぜか正面には付けられていません。正面の多くは獅子鼻です。祭吉が考えるに獅子鼻の獅子は百獣の王として睨みを利かせることから霊的守護が獏より強いため正面につかられたのではないか。(木鼻彫刻でも獅子鼻がほとんどで獅子鼻と比較すると獏鼻は少数です。)物質的に見れば獏鼻は像のように鼻が長く、枝のように細く伸びている獏鼻よりまとまっている獅子鼻の方が好まれたのではないか。(先が細いと引っ掛け安い。)側面に一つの場合は柱隠しに接する山車の堂山側に付きますから。などが考えられます。
・側面に二つ付く場合 成岩北組成車など
・側面に一つ付く場合 西成岩彦洲組日之出車など
・付かない場合 下半田南組護王車など
 他には台輪の木鼻では亀崎石橋組青龍車や乙川西山神楽車に獏彫刻の装飾が見られます。山車の
亀崎石橋組「青龍車」台輪木鼻
前部分の木鼻で上記の解説と矛盾しますが亀崎中切組力神車の台輪の木鼻に見られる唐草模様の木鼻の形に獏の側面が非常に形が似ていることから発展させて獏彫刻を施したのではないかと思います。
 これらは山車の構造部分の彫刻ですが装飾的な彫刻でも獏が見られます。亀崎田中組神楽車の前山泰平鰭などです。中央の泰平束の両脇に獏が向かい合って彫られています。こうした獏は神社の狛犬の様に見えるのは私だけでしょうか。

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