[尾張の山車まつり]−[祭吉の山車祭講座][彫刻の題材〜配置と奥深さ]

第103回 彫刻の題材〜配置と奥深さ

 山車彫刻の多くの題材は同一場面を画いたものがほとんどです。しかし、まれに別々の場面を絡めて画いた物があり、一見すると共通項が見出せない物もあります。
 その代表例として半田岩滑義烈組「八幡車」の壇箱が上げられます。流れの彫師といわれる出羽看龍の作で、その作風は特徴的なものとなっています。
 さて、その壇箱の図柄ですが正面中央に大黒さんと弁天さん。そして、左右両脇には和藤内仁田四郎が夫々配されています。大黒さんと弁天さんは七福神の内の二人で福の神ですね。和藤内といえば浄瑠璃「国性爺合戦」の主人公で中国明代の人物鄭成功(1624〜1662)です。仁田四郎は鎌倉初期の武将で仁田忠常(〜1203)といい(四郎は俗称)富士の巻狩では曾我兄弟の仇討ちの際、曾我十郎祐成を討ちとったことで有名です。これらを見ると福の神と年代が異なる史実上の人物です。
 これらだけを見ると何とも不可解な組み合わせです。更に壇箱の側面を見ると向って右側にはを乗せた、そしてが見えます。左側には、人物を乗せた、そしてが見て取れます。これらは十二支の動物ですね。十二支をベースに見ると正面の組み合わせも理解できてきます。和藤内はと仁田四郎はにまたがっています。別講座「吉祥鼠」で紹介しましたが大黒さんはと係わりがあります。弁天さんはですね。夫々足元に彫
られています。残りのも小さいですが弁天さんと和藤内の間にいます。こうした様々な場面を十二支をベースに集めて構成されているのが義烈組「八幡車」の壇箱「十二支」です。この図柄は出羽看龍のオリジナルで他には見られません。(これを彫常が参考にしたかは不明ですが、常滑山方常山車の壇箱は「富士の巻狩」で同じ部分に仁田四郎が彫られています。)山車彫刻にはこうした奥深い題材もあります。他に半田乙川殿山や常滑瀬木の前山蟇股に見られる「花和尚と弁慶」も同様に中国と日本、別々の話の人物(花和尚は「水滸伝」弁慶は「義経記」)ですがどちらも僧侶ということが共通しています。葛飾北斎の北斎漫画に同様な図柄が見られ、それを参考に立川が乙川で彫り、更にそれを参考に彫常が瀬木で彫った物です。
常滑・瀬木「世楽車」前山蟇股『弁慶と花和尚』

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