「イタタタタタ!何をする!痛いと言ふのに。オイラたちを食べようといふのか、お前たち。イタタタタタ!言つておくが、オイラたちは妖怪だから食べようにも食べられんぞ。オイラたちの体は頭から足まで全て最新のナノテク※1も敵はない妖怪繊維で出來てゐるのを知らんな、お前たち!ほら、味の無いガムを噛んでゐるやうだろ。それに食べたらお腹が痛くなるぞ。下痢をするぞ。夜に蒲団を汚して怒られることになるぞ。お尻をペンペンされるぞ。イタタタタタ!止めろと言ふのに!」
「小僧よ!こいつら、イテテテテテ!やはり、木で出來た人形だぞ。人形だからこいつらに食べられることはなささうだが、イテテテテテ!か、からだがズタズタにされさうだ」
「クエツクエツクエツクエツ、どうぢや、思ひ知つたか。この唐子たちはな、生前、それはまう、この世の地獄と言つてもよいやうな酷い目に遭つた人間たち、その何とも氣の毒な人間たちの怨霊が乗り移つたものぢや。その復讐の念は半端ではない。その鬱積した力が今爆発しておるのぢや。さぞや痛いであらう。クエツクエツクエツクエツ。唐子たちよ!遠慮することはない。こやつらを噛み砕いて粉粉にしてしまへ!」
と、その時だつた。バサバサバサツといふ鳥が翅を素早く揺らすやうな音が突然聞こえたかと思ふと、それは直ちに幾つも重なり、大きな音となつて礼拝堂の中に響いた。突然の物音に吃驚した小僧たちと朝比奈義秀が入り口の方に顔を向けると、半分開いてゐる扉から黒い影が次から次へと幾つも現はれ聖壇の方に向かつて宙を飛んで來るではないか。その黒い影の集団は唐子たちの攻撃を受けてゐる小僧たちの頭上に集まり、黒い雲のやうな塊となつて二、三回旋廻した後団子状態の小僧たち目懸けて一斉に落下して來た。
「な、なんだ!今度は黒い鳥のやうな物がオイラたちを襲つて來たぞ!」
「小僧よ、鳥ではない。蝙蝠のやうだ。それも鷲のやうにドデカい蝙蝠だ。なんだか知らんがオレたちには危害を加へず唐子たちを攻撃しておるところを見るとオレたちを助けようとしておるのだらうか」
煙突童子の言ふ通り、それは小僧たちも見たことがないやうな大きな蝙蝠で、全部で十数匹は居たらうか、何故か小僧と煙突童子には目もくれず、小僧たちに群がつてゐる唐子たちに飛び掛かると、その鋸の目のやうな鋭い歯と鉤針のやうな長い爪を使つて唐子たちを噛んだり引つ掻いたりと一斉に攻撃し始めた。唐子たちは澤山の蝙蝠の執拗な攻撃には太刀打ち出來ず、反対に自分たちがズタズタにされては堪らないと、小僧たちから蜘蛛の子を散らすやうに離れると、傷附いた体をガタガタ揺らしながら何やらキヤンキヤン喚いて我先にと礼拝堂の入り口へ走り、そこから全員退散してしまつた。 |
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