朝比奈義秀の亡霊が何やら呪文のやうなものを唱へると、そこに現はれたのは所謂唐子と呼ばれる子供の集団だつた。
「うーむ、つまり、この唐子たちは只の見せ掛けで、本当の正体はその霊といふことか。そして、その霊がこの朝比奈義秀の指図によつて動いてゐる、さういふ訳だな。しかし、さうだとすると、その霊とは一体何の霊だ?それに、この澤山の唐子の人形は元元何処にあつたものだらう?」
「唐子の人形のことは分からんが、霊については見当が附くのでは、ほら、狛犬が話しておつたやうに」
「あツ、さうか。例の人体標本か。なるほど、だからこのやうに霊の乗り移つた唐子の数も多いといふ訳か」
と小僧たちが不思議な唐子の正体について話してゐると、聖壇の上で呪文のやうなものを唱へてゐた朝比奈義秀の亡霊は
「またまたそこでコソコソくだらぬことを話しておるな。よいか、お前たち!この唐子たちはな、お前たちを楽しませるためにここに出て來たわけではない。唐子たちのこの踊りはな、その活動を始める前のひとつの儀式ぢや。準備体操と言つてもよい。この唐子たちのな、クエツクエツクエツクエツ、本当の恐ろしさをこれから見せてやらうではないか。なまくさまんだばさらだほんらおといといさんあんかうめんたんぴんどうらどうら・・・」
と今度はその大きい口を忙しく動かして速い調子で呪文のやうなものを唱へ出した。
すると、それまで小僧たちの周りで一心不乱に和楽器の演奏や踊りを繰り広げてゐた唐子たちの動きが急に止まつたかと思ふと、全員が小僧たちに向かつてどつと殺到して來た。
「小、小僧よ、唐子たちが!」
「な、なんだ!オイラたちをどうしようといふのだ!」
唐子の集団は小僧たちを目懸けて突進して來ると、巣を荒らされて怒つた蜂が人を襲ふやうに二人に群がつた。そして、二人の体のあちこちに、手であらうが足であらうが頭であらうがお構ひなく、獰猛なピラニアのやうに食ひ附いてそれを噛み始めた。 |
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