優しい大門組の若衆が何とかやりくりして持つて来てくれた缶ビールを一気に飲み干した小僧は、役所広司が山車に踏まれて半分潰れたやうな顔をしながら
「かあああ、堪えられないなあ、この味!」
「ビールは尾張横須賀の大門組のものに限るな
(そりや目黒の秋刀魚だろ)」
「どうか、もう一缶恵んでくだせえ」
と、困つた顔の若衆に空にした缶を手渡した。
しかし、いくら厚かましい小僧でも、弁当までお世話になつてゐることを思い出すと、少し気が引けたのか |
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「あつ、いや、冗談冗談」
「へへへ、止めときます、まだお昼だし」
「いやあ、それにしても横須賀に来てホンーートによかつたなあ!(水野晴郎の口調で)
「天気はいいし、長閑だし、祭りは人込みを気にせずゆつくりまつたり堪能できるし」
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いやいや、これは別に皮肉を言つてゐるわけではない
オイラは米の飯より祭りが好きだが、人が多過ぎるのはどうもなあ
だから、有名になり過ぎて見物客の多いところには行く気はせん
好奇心から一度は足を運んでみるが、祭り自体はそれほどのこともなく、人に踏まれて蹴られて、鼻血を流したアンパンマンのやうになつて帰つて来るのがオチだし
そこへいくと、ここの祭りはいいなあ、人に見せてやろうといふ威張つたところの無い、けれん味の無い祭りだな※1
何と言ふか、初めてここへ来た小僧でも、古くからの親友に出会つたときのやうな懐かしいくつろいだ気分にさせてくれる
そんな、ほら、英語で言ふインチメートルな祭りなんだな(インテイメイトだろ)
えつ、なになに、高山祭りのやうにもつとメジャーになりたいつてか?
如かん如かん、気持ちは分かるが、そんなことになつたら、今あるやうな良さはなくなると思ふな、少なくともこの小僧は2度と来ないぞ
ミーちゃんハ−ちゃんはほつときなはれ、本当に祭りが好きな人間にだけ愛されれば、それでいいんでないかい?
ここの祭りは、山車は全部で5輌とそれほど多くないが、伝統を感じさせる立派な山車だし、からくりもお囃子も他の山車祭りに決して劣らない
そして何より祭りを愛する人々の心がひしひしと伝わつて来る
東京から来たこの小僧でもその輪の中にすうつと入つてゐける
そんな素晴らしい祭りでないかい
それで充分ではないかなあ
いやいや、ビールをもらつたからといつてお世辞を言つてゐる訳ではない
(少しはあるかも)それより、心配なのは |