小僧は、とりあえず、駅の掲示板で確認した愛宕神社を目指すことにした。
早朝で車の往來もあまり無い静かな常滑街道に出ると、ひとりのお婆さんが家の前を掃除してゐるのが見えた。
そのお婆さんに愛宕神社と山車蔵の場所を聞くと、小僧の足は速くなつた。
「久し振りに山車に逢へると思ふと、くー、わくわくするな」
教えられた角を左に曲がると、その横路の向こうに、二層建ての、赤い大幕と柱や欄干の金箔が朝の陽光に眩い一輌の山車が見えた。
まさしく、それは小僧が一目逢ひたいと願つてゐた横須賀まつりの山車だつた。
「おおつ、あれだ、あれだ」
「うーむ」
「おおーい、逢いたかつたぞおお〜〜」
数十年ぶりに旧友に出会つたかのやうに、小僧は欣喜雀躍して山車に向かつて走つてゐつた。
それは、ご存知北町組の山車で、蔵から出されて、曳き廻しの準備がなされてゐるところだつた。
小僧は、山車の周りを固めてゐる楫方をぞんざいに押しのけると、山車の前に進んだ。
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「うーむ、インターネツトで見たとおりのなかなか豪華な、この取り立てて何といふこともない街にはもつたいないくらいの立派な山車ではないかい」
(おいおい、言葉が過ぎるぞ)
「からくり人形たちもなかなか愛らしい顔をしとるし」
「なになに?」
「うんうん」
「そうかそうか」
「人形のお前たちもこの小僧を待つてゐてくれたのか」
「可愛いい奴ぢや」
「ほうほう、蔵も立派でよく出來ておる」
「お前たちは果報者ぢやな」
「ん?神輿もあるでないかい」
「しかし、この神輿は、立派な山車に比べてちいつと安つぽくないかい?」
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と、まあ散々言いたい放題の小僧だつた。 |
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「さあ、楫方さんたち、頑張つてはようこの山車を出してやつとくれ、それに囃し方の人たちはどうしたのん?」 |
小僧は、山車の曳き出しが11時過ぎになると聞かされると、ひどくがつかりしたが、それはそれでどうすることも出來ず、愛宕神社の境内で一服すると、ウキウキと、
「さあさ、まつりだ、まつりだーい」
「くわんぐら、くわんぐら・・・くわんぐら、くわんぐら・・・」
と踊りながら、公通組、大門組、本町組と、山車をひととおり見て廻るのだつた・・・ |