尾張の山車まつりへ [横須賀まつり訪問記]−[3]


〜第3回〜
隣の男のいびきも漸く収まり、小僧が眠りに就くと、ほどなくバスは名古屋駅に着いてしまつた。
  「お客さん、お客さん、名古屋ですよおお」
  「うーん、もつと寝かせてくれええ・・・」
運転手に叩き出された小僧は、よろよろと半分眠つたまま名鉄に乗り、漸くのこと、横須賀にたどり着いた。

しいーんと静まり返つた駅を出ると、古い町並みの中に高層マンションが混在してゐるのが見える。
街全体はまだ眠つてゐるやうだつた。
「ここが尾張横須賀か、確かに祭りの幟やポスターは見えるが、なんか静か過ぎるではないかい」
「さうか、土曜のまだ早朝だからな」

いくらか予想はしてゐたが、横須賀も、やはり時代の波には抗しきれず、名古屋のべツドタウン化が進んでゐた。
今では名古屋の一部と言つてよいのかもしれない。
名古屋と隣接してゐることを思えば、これも仕方のないことか。
従つて、祭りの様子も昔と今では随分と違ふのかもしれない。
これが、もう少し前の時代なら、試樂の日とはいえ、祭りの当日は早朝から、それらしき賑わいと匂いが感じられたのではないか。
少し寂しい思いを禁じえない小僧だつた。

と、小僧の前を、三脚だの重そうなバツグだのを担ぎながら、カメラを幾つも持つて大変そうに歩いて行く男がゐる。
小僧は何を思つたか、その男に追いつくと、肩の上に乗つて、ピヨンピヨン跳ねながら、目の前の高層マンシヨンに向かつて叫んだ。

 「おーい、みんな起きなせええええ〜」
 「はよう祭りを始めてくださらんかああああ〜」
 「小僧が来たでよおおおおおおお〜」
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