尾張の山車まつりへ [横須賀まつり訪問記]−[1]


〜第1回〜
神楽小僧(かんぐらこぞう)は、古くは室町時代から存在する小僧系の妖怪の一種で、祭りのあるところには必ずと言つていいほど顔を出し、お囃子に乗つて踊つたり、引き出物の饅頭や酒を頂戴したりして、祭り好きの人間と一緒になつて騒ぐのを無上の喜びとしてゐる、そんな、どちらかと言えば人畜無害の無邪氣な妖怪である。
因みに「かんぐら」とは「かぐら」がなまつたものださうな。
世間では既に滅びてしまつたものと思はれてゐるが、なんの、1人の神楽小僧が普通のサラリーマンに身をやつして東京に住んでゐたとは誰も知るまい。

その小僧は、夜の10時に残業を終えると、そそくさとラーメンで空腹を満たし、新宿へ向かつた。夜行のバスで名古屋へ向かうためである。
目的地は名古屋の近くの横須賀である。そこで行はれる横須賀まつりを見物しに行こうといふのである。
新宿駅南口に着くと、週末といふことで覚悟はしてゐたが、やはり、JRバスドリーム号名古屋行きは2便とも満席だつた。
今度の横須賀行きは、小僧自身急に思ひ付いたことで、バスを予約する暇はなかつた。
以前から横須賀まつりに関心があつた小僧だが、まつりの本樂に当たる日曜は運悪く催事の仕事が入つてゐて行くことが出來ない。諦めかけてゐたが、「土曜の試樂だけでも・・・見なければ後で後悔するやうな氣がする」と、残業の最中に急に思ひたつた。

といふわけで、仕方なくキャンセル待ちの整理券を申し込むと、渡された番号札は7番だつた。
「げつ、こりやあ、あかんわ、望み薄だがや」
(小僧はその昔尾張に住んでゐたことがあつて名古屋弁が抜けない)」
小僧は急に脱力感を覚えた。
しかし、そうなつてみると、横須賀まつりへの思ひは前にも増して俄然強くなつた。
突然、頭の中に、インターネツトのWEBサイト『尾張の山車まつり』で見た横須賀の山車が次から次へと現れて、祭り装束に身を固めた大勢の大人や子供たちによつて
「ワツシヨイ、ワツシヨイ・・・ワツシヨイ、ワツシヨイ・・・」と威勢よく曳き廻されてゐくのが見えるではないか。

「よーし、かうなつたら何が何でも、バスが駄目なら歩いてでも横須賀に行くぞおお!・・・」
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