横須賀まつり〜新楫としけのはな

09-07-18更新

楫棒(かじぼう)に肩を入れ方向を変えたり、山車の運行に直接携わる役割を楫方(かじかた)といいますが、横須賀では楫取(かじとり)と呼ぶ事が多いようです. 弁慶格子の袢纏(はんてん)・股引(ももひき)、頭に手拭い、足は黒足袋に草鞋(わらじ)は名古屋型の伝統的な楫方装束です.

楫取は前楫4名、後楫4名の合計8名で、特徴的なのが化粧廻しです.色とりどりの長い反物を2〜3枚重ねて腰に巻きます.左の楫棒に付く楫取りは右に結び、余った部分を垂らします. 右側の楫取は反対に左側が結び目になります.
この化粧廻しですが古い写真には見られず、戦後になって始まったものかもしれません.

このように化粧廻しをつけた楫取は、横須賀まつりの主役ともいえる存在ですが、なかでも山車進行方向から見て右側の楫棒の外に付く楫取りをしけのはなといい、一番の名誉とされています.
また、初めて楫取りになる若者を新楫と呼び、彼らには祝儀の手拭い(タオル)を送るのが慣わしです.

■新楫(しんかじ)

楫取りの中で、その年に初めて楫取となった楫取1年生を、特別に新楫(しんかじ)と呼びます. 新楫は難関を越え新しく楫取に選ばれたお祝いとして贈られたタオルを、腰に巻いて祭りに参加します.

この腰にタオル(手拭い)をつけるのは、横須賀に限った事ではなく、名古屋市緑区の鳴海と有松、そして常滑市大野や西之口などの横須賀を中心とした 地域の名古屋型系の祭礼で見受けられます.ただし、これらの地区は楫方全員が付けており、新楫に限定されているのは横須賀のみの習慣でしょう.

タオルを送る風習は、当初は日本手拭いであったと思われますが、その後タオル(フェイスタオル)となり、現在ではスポーツタオルやバスタオルなどの大型が主流になっています. とても腰に巻く事が出来ないぬいぐるみなどが送られる事も.


腰に巻かれたタオル

身につけられないタオルは輪掛けに

■しけのはな

新楫を経て一人前になった楫取の次の目標は、憧れの「しけのはな」です.口には出さないまでも皆が目標にするのが「しけのはな」. その「しけのはな」とは山車を正面から見て左側の梶棒の一番外側を担当するポジションをいいます.

楫取りに必要なのは体力と根性だそうですが、この「しけのはな」は、ひときわ根性が必要だそうです.
なぜ「しけのはな」が?という理由ですが、横須賀の町は別項で述べた通り尾張徳川家の別邸に付随して碁盤割りで町造りされています.
現在でも山車巡行ルートは碁盤割り内では旧来と変わらない狭い道筋も多く、当然山車が方向を変える辻も決して広くありません.
そして祭り一番の見所(楫取から言うと見せ所)である「大どんてん」の行われる同盟書林脇の通称「どんてん場」はどんてんさせるには 決して広いとは言えない場所です. 山車の前方を担ぎ上げて回転させるわけですから、危険この上ないことになります.

ここで左前がキーポイントになってきます.どんてんの際に山車は常に時計回り(右回り)で回転します. そのため、左前の楫棒先が一番最初に障害物に近づく事になり、家や電柱に挟まれる危険性が一番高い訳です.
その危険なポジションをつとめることが男の誇りに繋がるのでしょう.


左右均等でない楫棒

また、山車の梶棒は左前が長くなるように山車に取り付けられているため、余計危険性が高くなります. 長い左前が無事クリア出来れば、短い右は余裕で通れる道理です.

四方の角を家に囲まれていたこのどんてん場も、最近では家が取り壊され広くなってしまい、かつての面影はありません. 電柱を避け、軒に注意して精一杯どんてんする様は、スリル満点で楽しいモノでした.近頃の挟まれる危険性の少なくなったどんてんを、「しけのはな」の皆さんははたしてどう思っている事でしょう.

このような「しけのはな」ですが、残念ながら望んでも誰でもがなれる訳ではありません.もちろん楽(お囃子)の稽古は一生懸命努めなければなりませんが、 最後の選択基準として根性・体格が必要となってくるのです.また、担ぎ上げるとき肩の高さが揃わないといけないという前提条件も必要となります.

※現在はあまり使われなくなった言葉ですが、横須賀まつりでは左のことを「しけ」、右は「つけ」と言います. 語源は不明ですが、大門組では現在でも山車を左に寄せる場合「しけ!」と指示しています.
つまり「しけのはな」のしけは左、はなは端で、左端ということです.

■楫棒締め

祭り前になると、山車に楫棒を取り付ける作業が行われます.祭り1週間前に行われる組もありますが、大半は試楽前日の夜に行われています.
楫取各自がそれぞれ担当する楫棒位置を麻縄(あさなわ)で台輪と楫棒を堅く縛り固定します.
その固定方法は独特であり、てこ棒等の器具を使用せず、人力のみで縛り上げます.
(以下この項編集途中です)